課長と私

「ちょっとだけね。すぐ戻る。」

「そ…ですか。」


やっぱり少し寂しい。
家に帰ってもご飯食べてお風呂入って寝るのサイクルだ。

…いや、それが普通なんだけど。


「今日はご飯どうします?」

「あー…いらない、かも。接待しなきゃいけなくて…」


都合の悪そうな表情だ。
この人なりに私に気を使ってくれているらしい。


「了解です。…今日中には、帰ってきますよね?」

「それは大丈夫。意地でも帰る。絶対帰る。」

「ふふふ。じゃあ…待ってます。」

「………ねぇ、楓ちゃんこっち来て…」

「え?」


手を引かれて給湯室の中に入る。
大人が2人、それも1人は高身長の男性が入れば窮屈な部屋だ。


「りょ……」

「ちょっとだけ…」


優しく私のことを抱きしめた。
壊れ物を扱うみたいに優しく。

私もそれに応えるように背中に手をまわす。


「はぁ…充電…」

「充電…されるんですか?」

「される…俺、楓ちゃんに触ってないと死ぬ…」

「死んじゃダメですよ。……確かに、私もホッとします」


身長の高い彼が覆いかぶさるように抱きしめる。
私の髪に頬を摺り寄せていく。


「…俺はもっといろいろなことしたくなる。」

「こら。」

「痛い、足、痛い楓ちゃん。ヒールで踏まないで。」


悪さしようとするのを慌てて制する。
こんな時間が愛おしくて、切ない。


「じゃあ…早く帰って来て…」


自分でもわかるくらい、か細い声が出た。
これじゃ先輩を心配させてしまう。言っちゃダメなのに。

声に出してしまった後に後悔が募る。

先輩が私の体を離して真剣な目でこちらを見る。
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