体から堕ちる恋――それは、愛か否か、
綾香から結婚話を聞いた翌日、敦子は週に一度の沖田フラワースクールの講座に出かけた。気持ちが浮き立っていたせいか、いつもよりずいぶんと早く教室についてしまった。他の生徒はまだ誰も来ておらず、草野百合という、名前からしてこの職業にぴったりの女性講師が花材をそろえていた。

「あれ? 藤沢さん、今日は早いですね」

部屋中にユリの甘い匂いが漂っている。今日の花材はユリにトルコキキョウにドラセナか。

敦子はユリの香りを吸い込んでから、
「あら早すぎちゃったかしら」
と、百合に笑いかけた。

「ええ。まだ30分前ですよ。それに藤沢さん、なんか嬉しそう。いいことでもありました?」

その名前のように草野百合は、草野のように若々しく、ユリのように華やかな笑顔を敦子に向けた。

敦子は、同年代の綾香と百合をつい比べてしまう。綾香も百合も同じくらい容姿がいい。ただ、童顔で顔のパーツがすべて丸みを帯びた、可愛いタイプの綾香と異なり、百合の方が顔のつくりも雰囲気もクールで艶っぽい。
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