体から堕ちる恋――それは、愛か否か、
「海って、すごいよね」
と、しみじみと言う美弥の横顔を見て、優は
「なにが?」
と聞き返した。

「海そのもの。この広さも深さもうねる波も、砂浜も、ぜーんぶ。考えたら海の存在って凄すぎて不思議」
「うん、そうだな」
「空も星も」
「確かに。なんか俺、すげえ幸せな気持ちになってきた」
「じゃあ海と空と星に乾杯しよう」

美弥はワインのコルクを抜いて、砂浜の上に置いたグラスに注いだ。グラスを持ち上げて香りを嗅ぐと、りんごや洋ナシのような香りがした。

「いい香り」
「さすが、むっちゃくちゃ高かっただけあるな」
と優は真剣な顔で言い、
「そうなの?」
と、美弥がグラスに口をつけるのをちょっと躊躇していると、
「うん。1500円もした」
とニヤッと笑った。

「なによ、びっくりさせないでよ」
「あはは」

夜空に首をそらして、優が楽しそうに笑う。

「なんでびっくりするんだよ。普通は『えー、そうなのぉ~嬉しぃ~』とか喜ぶだろ」
「私にはそんな高いワインなんて敷居が高すぎるもの。あー、安心した。じゃ、乾杯」

優のグラスに軽く自分のグラスをぶつけてから「乾杯!」と、美弥は海にグラスを突き出した。
< 149 / 324 >

この作品をシェア

pagetop