体から堕ちる恋――それは、愛か否か、
「別れてほしいんだ」
「どうして? あの彼女のせい?」

優はどう答えていいのか迷い、少しの間、沈黙した。

「理由を説明する義務くらい、あるよね?」

綾香の目は今まで見たことないほどきつく、声は聞いたことのない硬さをおびていた。
優はそれが正しいのかどうかは自信がなかったが、正直に理由を伝えることにした。

「好きな人ができたんだ」

綾香のまぶたがぴくっと持ち上がり、瞳がよりきつく、大きくなった。

「私より、ってこと?」
「ごめん……」
「誰? いつから? なんで? 全部ちゃんと答えて」

優はふとビールグラスに目をやった。
さきほどまで涼しげにグラスを覆っていたはずの小さくてきれいな水滴は、だらしなく形をくずしてたらたらと流れ落ち、下に置かれた紙のコースターに吸収されて、グレーのしみを作っていた。

このとき、優がすぐに答えらえる質問は『誰?』だけだったが、それに答えることを躊躇していると、「あの、同級生の人なの?」と綾香が聞いてきた。
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