体から堕ちる恋――それは、愛か否か、
「今日の2時にブラウンホテルのラウンジで藤沢さん親子と会合することになったから……って、いったいなんなのよ! 」
「ああ」
「ああ、じゃないわよ。結婚するって噂が流れたかと思えば、別れた相手の母親から脅されるなんて」
「脅される?」
「そうよ。いい年した大人の付き合いに親がでしゃばるなんて嫌なのに、有名人のお兄さんが二股かけて女を捨てたって周りに知れたらこまりません? みたいなこと言われて。それって立派な脅しじゃないの。私だと喧嘩になっちゃうと思うから、代わりにお父さんを行かせることにした。あんたさあ、いったいどんな人と付き合ってたわけ?」
「可愛くていい女の子だよ」
「へえ~。なのに、こんな終わり方?」
「それは、俺のせいだから」
「そうね、確かに二股する男なんて最低ね。でも、彼女自身が文句を言ってくるならともかく、親がすぐに上京してきて話をしたいだなんて、相当よ。あなた、彼女にはちゃんと謝ったの?」
「謝ったよ。でも納得はしてなかった。素直には別れないから、って」
「『素直には別れない』か。彼女は何を求めているのかしら? 婚約不履行の慰謝料……? あんた、彼女をかばって嘘はつかないでよ」
「嘘って?」
「彼女のお母さんは、彼女はあなたと結婚するはずだったのに、二股かけられて捨てられたって思ってるの。だから彼女の話に合わせて結婚の約束をしていないのに『した』とか言ったら、あのお母さんなら婚約破棄で訴訟するかもしれない。そうだ、話は一応録音しておいて。面倒な要求をされたら弁護士の先生に相談してからね。それと――」
「大丈夫だよ」
 小さな花屋から会社の社長となった母は、これまで様々な問題に直面し、それを乗り越えるごとにリスクヘッジのすべを学んだ。つまり用心するに越したことはないと。
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