体から堕ちる恋――それは、愛か否か、
「待ってください。お父様はよくても、優さんはどうなんですか? 二人とも同じ会社ですし、訴えられたなんて優さんも体裁が悪いでしょうし、クビになるかもしれませんよ」

母親ばかりがやっきになって、綾香はスカートの上に手を置いて、他にどこも見るべき場所がないというように、その手を見つめている。優はそんな綾香に向かって言った。

「僕は別に構いません。それで綾香さんが納得するのであれば」

『訴える』ことが敦子の切り札だったのに、訴えられることだけは勘弁してほしいと泣きつかれる予定だったのに、予想外にすんなりと受け入れられてしまって、敦子はあわてた。

しかし綾香の方は依然何も言葉を発しないので、勇はさらに続けた。

「それではあとは弁護士を通して進めるので――」
と、そこまで言ったところで、ようやく綾香が顔を上げた。

「待ってください!」
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