体から堕ちる恋――それは、愛か否か、
綾香親子が去っていく後ろ姿を見送りながら、「疲れた……」と、 勇がげんなりした顔を優に向けた。
優もすっきり解放されるどころか1年間囚われの身になることとなり、気分は暗く、溶けたコールタールが胸に張りついているんじゃなかろうかと思うほどに重かった。

2人はもう一度席に着き、どちらともなく「ふぅ」と息を吐いた。

「お前さ、彼女をだますようなことはするなとは言ったけど、なにも二股かけたとまで告白する必要はなかったんじゃないか? ぼかした方がいいこともあるだろう」

言われてみればそうかもしれないが、綾香に別れを告げた時、優には美弥との関係を隠そうという考えが浮かばなかった。
あのとき、綾香から「二股かけてたってことだよね?」と尋ねられたとき、「そうじゃない」と答えれば、確かにこんな複雑なことにはならなかったし、綾香もそういってほしかったのかもしれない。優はテーブルに肘をつき、そんなことを今さらながらにぼんやり考えた。
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