体から堕ちる恋――それは、愛か否か、
「別荘に連れて行った彼女はどうするんだ?」
「どうしようもない。1年後に考えるよ」

小瓶のビールとグラスをトレーに乗せたウエイターが目の前を通り過ぎる。
勇が「もう、行こう」と、立ち上がった。

「ビール奢ってくれるんだろう? ついでに鰻も奢れ」
「えー」
「えー、じゃない。こんなことに付き合わされて、えらい疲れた。鰻でも食わなきゃやってらんないよ」
「単に鰻が好きなだけだろ」と言って、優も立ち上がる。
「鰻辻に行こう」

銀座にある老舗の鰻屋『鰻辻』は、値段は張るが、むちゃくちゃうまい。勇の大好きな店だ。
きっと容赦なく特上のうな重とか蒲焼とか食べるんだろうなと思いつつ、優は疲れたという割には軽い足取りで歩いていく勇の後姿を追った。
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