体から堕ちる恋――それは、愛か否か、
「優さんにちょっかいを出さないでもらえます? 同級生だからって人の彼氏に手を出すなんて――優さんはもうあなたに連絡しないって約束してくれました。だからあなたも、もう彼に連絡しないでください。私たちの将来を邪魔しないで。優さんも――」

そこで綾香はたっぷり間を置いて美弥を見据え、「困ってますから」とゆっくり続けた。
可愛い花にも毒はある。
目の前の、スイトピーのように愛らしい女が毒を吐いている。

その突然放たれた毒は、不意打ちだったことも手伝って美弥の心に強く刺さって広がった。

「私だけが悪いわけじゃない」と心の中で強がってみたが、少しも正当化できるはずもなく、美弥は「ごめんなさい」と謝るしかなかった。
そして、目の前にいるこの愛らしい綾香という彼女が沖田優の本当に好きな女性で、自分はとてもよこしまで、とてもひどいことをしたのだと自分を戒めた。

むんむんと蒸し暑く腫れぼったい空気を蹴散らすように、綾香が踵を返して小走りで去っていく。
サンダルのヒールが地面をコツコツコツ打ち鳴らす音が消えていくまで、美弥はその場に立ち尽くしていた。
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