体から堕ちる恋――それは、愛か否か、
「草野さんはなんで東京に行くことにしたの?」

高校生のときと同じように境内の階段に座り、途中の拓未はコンビニで買った缶ビールを百合に1本渡した。
それから一緒に買った柿ピーの袋を開けて、2人の間に置いた。
プシュッと、プルトップを同時に開ける音が夜空に響く。
満開の桜は見上げるたびにため息が出るほど美しかったのに深夜のせいかその姿に見惚れている人間は拓未と百合だけだった。

「もともと沖田生美さんていうフラワーアーティストにあこがれて講師になったの。東京の本校の方が生美さんに接するチャンスがあるんじゃないかと思って移動をお願いしたの」
「そうなんだ。で、念願かなった?」
「うん。イベントや講座のお手伝いなんかで会える機会が増えた」
「そんなにすごいの? その人」
「うん、すごい」
「どんな風に?」
「花がいきいきと自分たちの物語を語りかけてくるような、そんなアレンジ」
「へえ。見てみたいな」
「そうだ、藤野さんと一緒に見に来ればいいじゃない。優さんに頼んだら、多分ゲストで入れると思うし」
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