死にたがりの私と 生きたがりの君
現実の味

美桜side






学校帰りの制服のまま、
病院の廊下を駆け抜ける。


何人かの看護士に注意されたけど、
全く気に止められなかった。



肩で息をしたまま
楓の病室の扉を勢いよく開いた。



「楓!!」




病室の中では、
先生とお母さんと思われる人
知らない男の子が
楓を取り囲んでいた。


駆け寄って楓の顔を覗きこむと、
楓は苦しそうに息をしながら
うっすらと目を開いて
私の姿を捉えた。




「美桜………ごめん……」


力の無い声。




「楓……………………!」

こんな時にまで楓……。







しばらくして、楓が眠り
先生が何かあれば
ナースコールを押してくれと
促して病室を出ていった。


楓のお父さんも駆けつけて、
私達4人は黙りこむ。

すると、楓のお母さんとお父さんが
私に話し掛けてくれた。



「あなたが……美桜ちゃんなのね?」


「はい………」


長いストレートの黒髪。
私を捨てたママと正反対のような
楓のお母さんらしい雰囲気だった。


「来てくれてありがとう……
あなたが来たら急に、
楓の様子が落ち着いたのよ」


「え……………?」


「あなたが来るまでは
反応すらなかったのよ。
楓ってば、あなたが本当に好きなのね」


綺麗に笑うお母さん。


「本当ですか…………?」



「本当だよ。マジで悔しいぜ」

私の呟きに答えたのは、
あの男の子だった。


「どーせあんたが彼女なんだろ?
俺は、翔琉。こいつの親友」


「翔琉くん……か……よろしくね」


翔琉くんはニカッと大きく笑った。


「マジで羨ましいよ、美桜さん。
コイツ、いつでも美桜さんのことばっかり
考えてんだもんな。
学校で倒れた時も意識なんか
ほとんどないくせに
美桜さんの名前だけ、
近くに居た俺にしか
聞こえないくらい小さく呟いたんだ」


私の名前を……………………?


< 116 / 207 >

この作品をシェア

pagetop