その唇に魔法をかけて、
 大きな目をクリクリさせて自分を不思議そうに見上げる視線に、泣き顔を見られたという羞恥心を煽られた。

「泣いてなんかねぇよ!」と恥ずかしくなって子ども相手につい虚勢を張ってしまった。あどけない顔をしてキスというその行為にものともせず、年頃だった花城は一人で真っ赤になりながら狼狽えていた。そして、元気が出る魔法と言いつつ、にこにこと笑ってその少女は最後に深川美貴と名乗ったのだ。

 その瞬間、悲しみの底で突然現れた小さな美貴によって柔らかな光に包まれたような気持ちになった。胸に広がったその心地いい温かさは、今でも鮮明に思い出すことができる。

「う~ん、あれってキスっていうのか……?」

「え? なに?」

「い、いや、なんでもない、独り言だ」

 その時の気持ちを思い出したところで花城の長い回想が途切れた。花城はなにを考えていたのか藤堂に語ることもなく、すくっと立ち上がって背伸びをした――。
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