大きな河の流れるまちで〜番外編 虎太郎の逆襲〜
試合が始まった。
どちらのチームも実力の差はなさそうだ。きっと、チャンスを生かせた方が点を取る。
相手チームの6番と7番は目立って上手そうだが、ラフプレーが多そうだ。頑丈そうな身体を使って、どんどん前に進む。僕らのチームはパス回しが上手く出来ているかな、ミノルにきちんとボールが渡れば、チャンスがありそうだ。皆、声をだし、応援しながら、ゲームを見守る。
前半30分過ぎたところ出来て、タイミング良くミノルにボールがが渡ったが、相手の7番が身体を当ててミノルのバランスを崩した。今のは、イエローカードじゃないのか?チームメイトから、大声がかかるが、そのまま試合は続行だ。ミノルはしばらく、座って、呻いたが、また、立ち上がって、プレーに戻った。
両チームに点は入らず、前半戦を終えた。
コーチがミノルに後半も出れそうか確認している。ミノル脇腹には赤く痣が広がっている。
「大丈夫。」と笑顔を見せるが、かなり、痛そうだ。こんな奴らに負けられない。そう、皆思った。
後半戦。
僕もピッチに立つ。必ず、ミノルに繋ぐ。そう、決心する。
声を掛け合いながら、ボールを追う。前半15分。僕はボールを奪って、ドリブルに持ち込む。けれど、ミノルに渡る前に6番の選手に邪魔される。こいつは、ボールじゃなくて、足狙って来てると思った途端、肘がみぞおちに入った。途端にスピードが落ちて、ボールを奪われる。
「チキショウ」口の中で呟く。駿太が、僕の肩を叩く。「落ち着け。」と言ったが、駿太の顔も険しい。
体勢を立て直して、また、ボールを追う。粘り強く、チャンスを待つ。チームメイトからのパスが通って、足にボールに届いた。ミノルに必ず繋ぐ。そう思って、スピードを上げる。相手チームの選手をフェイントでかわす、ミノルが見えた。チャンスだ。後ろから突き飛ばされる感覚と、足元で今まで聞いたことのない、音と突き上がってくる痛みで、そのまま地面に頭から突っ込んだ。腕で頭をかばったが、意識が遠くなる。虎太郎と言う大声と、このヤローという、怒声が聞こえた。

切れ切れに誰かの声が聞こえる。髪をそっと撫でて、
「大丈夫よ虎太郎」と言ったのはナナコの声だ。僕は安心してウトウトする。
次に耳元で聞こえたのは仕事に行ってるはずのリュウの声だ。耳元で
「お前の足。ちゃんと修理してやる。安心して寝てろ。」とでかい声。うるせーよリュウと口を動かしたつもりだけど、そっか、足、怪我したのか。次の試合に間に合うかな。と納得して、深く眠った。
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