大きな河の流れるまちで〜番外編 虎太郎の逆襲〜
試合は近所の高校のサッカー部との練習試合だ。
でも、1年生にとっては、デビュー戦で、みんな、気合が入っている。ここで、監督の目に止まれば、この後、試合に短時間でも、出してもらえるかもしれない。皆、小学生や、中学生の時から、サッカーを続けてきている奴らはばかりなのだ。
試合前に、最後のミーティングがある。戦い方の確認だ。僕は後半戦に出ることになっていて、サイドから、足を生かして、ゴール前までドリブルで駆け上がって行く役目だ。まだ、みんなより、小ささめで、体重が軽く、スピードがある事をコーチは見てくれているのだ、その後、実(ミノル)にボールを集めて、得点を得るっていうのが、今日の後半の作戦だ。
相手チームを眺めていたミノルと駿太が眉をひそめて、何事か言っている。僕の耳元で、6番、7番に気をつけろ。あいつら、乱暴に削って来るぞ。昔、試合した事がある。おまえ、小さいから、きっと、狙ってくるぞ。と嫌な事を言う。審判が見ていなければ、反則にはならない。結構サッカーは乱暴なスポーツなのだ。僕は気をつけておく。と2人に笑ってみせた。大丈夫。今までだって、この体で試合してきたのだ。僕は自分に言い聞かせて、ベンチに向かった。
ミノルが、
「すげー車が来てる。アルファロメオじゃね。」サッカーコートのフェンスの向こうに黒いくるまを見つけている。みんながベンチを立って注目する。えーと、それって、壮パパの車かな。サングラスをかけた、絵になる男と、手を引かれて車から降り立ったのは、グレーのワンピースを着て、黒い麦わら帽子を取り出しているのは、桜子ママじゃなくって、やっぱりナナコだ。
「あれって、誰かのかーちゃんかな?すげー、若くて、可愛いけど。」とコーフンする駿太。いや若くはないよ。48歳だし。と心の中で言ってみるが、壮パパが、僕を見つけて、手を振ってきたので、みんなの視線が僕に刺さる。やっぱり、来ないように言っておくべきだった。と後悔する。あやめの事に気を取られて、他の家族の事をすっかり忘れていた僕が、悪い。駿太が
「あれって、虎太郎の両親?!」と、僕の肩を揺する。
「ナナコは、母だけど、壮一郎さんは父じゃない。けど、もう1人の父みたいな…」と言葉を濁すと、さやかが割って入って、
「もしかして、不倫!?」
「違う!」あーもう、まだ誰にも家族の話をしていなかったのが、いけなかったんだけど、激しい誤解が渦巻きそうだ。
そんな事はおかまいなく、壮パパは日陰に椅子を用意し、ナナコを座らせたり、クーラーボックスを取り出して、飲み物を勧めたりして、ピクニックの様な、光景になってきている。和やかに笑いあって、仲の良い夫婦の様だ。いや、リュウがナナコを連れてきていたら、もっと、濃厚な接触におよぶ光景に高校生の脳みそを沸騰させる事は、明白なので、あの取り合わせがベターであったと、僕は自分に言い聞かせる。
そして、興味深々なみんなに向き直り、
「後で、ちゃんと、話す。だから、今は試合の事、考えよう」と言って、みんなをベンチに座らせたのだ。

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