大きな河の流れるまちで〜番外編 虎太郎の逆襲〜
バタバタと廊下を急ぐ足音で、目が覚めた。部屋は明るくなっている、もう、朝かな。
部屋をノックもせずに入ってきたのは、駿太とミノルとさやかの3人だ。
「虎太郎大丈夫か?」とすごい勢いで近づくが、あやめに気づいて、ちょっと足が止まる。横にあるソファーで寝ていたらしいリュウがのっそり立ち上がり、
「こら、ガキども、面会時間は、午後からだって言ったろ」と笑っている。駿太がでかいリュウにビビりながら、
「朝、虎太郎の家に電話したら、7時頃なら、個室だし、自分も行こうと思ってるって、お母さんが言ってくれて、それで、俺たち、…」ともごもご、言っていると、さやかが、
「コッチの人が、虎太郎君のお父さんでしょう。すごく似てる〜」と笑い出す。そして、
「そこにいるのはこの間、コンビニに来てた人でしょう!」興味深々で、僕を見る。やれやれ。僕は
「コッチの人が、俺の父親のリュウで、僕の隣にいるのは僕の許婚の東野あやめ。ちなみに昨日来てたのはあやめの父親の壮一郎さん。」と一息に言った。3人は
「いいなずけー」と叫び、口々に結婚するのかとか、何時からなのかとか、聞いてくる。だから、言いたくなかったんだ。
リュウはピューと口笛を吹き
「言ったな。」とクスクス笑う。と、壮一郎さんと桜子さんとナナコが部屋に入ってくる。リュウが
「聞こえた?壮一郎。チビ虎のヤツあやめのこと許婚って言ったぜ。」と言って、壮一郎さんの顔を見る。壮一郎さんは
「部屋の外にも叫び声が聞こえたし、こいつら昔から許婚だろ。チビ虎、最近、許婚やめてたのか?」と不機嫌そうに僕を見る。
「やめてたわけじゃないけど、今の僕じゃ、ダメなんじゃないかって思ってた。」と言うと、桜子さんが、
「困るな〜、チビ虎。私、あやめのお見合いの話、許婚がいるからって、ずっと断ってきてるんだけど」と笑う。僕は勇気を出して、
「許婚ってまだ、有効かな?」と壮一郎さんに聞く。壮一郎さんは
「あやめはどう思ってるの?」とあやめに聞く。あやめは両親の顔を見て、
「有効にしてください。」と言った。リュウが
「あやめ、嫌になったら何時でもやめていいぞ。チビ虎はまだどう仕上がるか分かんないし。もっと、いいオトコがいるかもしれない。」とからかうので、僕は、
「これから、あやめと一緒にいられるように努力するんだよ」と赤くなって言い返すと、壮一郎さんが、
「期待してるよ」と言って笑った。リュウが
「さて、腹が減ったな。オトナは飯にするか。」と言いながら、ナナコを抱きしめ、
「おはよう、ナナコ」と唇にしっかりキスをし、チュッと音を立ててから唇を離した。相変わらず、周りのことは全く気にしないヤツだ。ナナコの肩を抱いて歩き出す。ナナコは、外でキスしないでって言ってるでしょうとリュウの胸を叩く。イヤ、ここは外じゃあないし、もう一回しとく?などの会話を繰り広げながら、病室を出て行く。その後ろから、桜子さんと壮一郎さんが手を振って出て行った。やれやれ。
高校の友人は3人とも
「キスしてた」「人がキスしてるの初めて見た。」とものすごく盛り上がりってる。ミノルは「お前の親って外国人なの?」と聞いてくる。外国人だったら良かったのかも。と僕は、少し思った。
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