大きな河の流れるまちで〜番外編 虎太郎の逆襲〜
僕は、ふたつの家族の話をした。
同じマンションに住んでいること。ほとんど、ひとつの家族のように生活していること。
あやめと一緒に育って来て、小さい頃から、ずっと一緒にいるって約束している事。
僕が与えられた環境だけじゃなく、外の事も知りたくて、高校は公立を選んだ事。
そんな事だ。
「ところで、昨日の試合はどうなったの?」と僕が聞いたら、ミノルと、駿太はバツが悪そうな顔をして、さやかが口を開く。
「昨日、虎太郎君が足を開放骨折ってヤツで倒れたの覚えてる?」僕は横に首を振る。足の怪我の事はまだ、誰にも聞いていない。
「足の骨が折れて、折れた骨が外に飛び出したって、虎太郎君のお母さんが言ってた。それでね。倒れて、みるみる、血がたくさん出て、コーチも監督も、虎太郎君のお母さんと、お父さんじゃない人も走ってきて、救急車を呼んだんだけど、その間にこの人達、相手チームの人にわざと怪我させたって、揉み合いの喧嘩になって、ミノルと駿太は6番と7番の選手を殴って、レッドカードが出たの。もちろん、相手チームの2人にもレッドカードが出たけど、試合はドローになった。どっちのチームも主力選手がいなくなった訳だし。上手く、ゲームができなかったって訳。」と言った。
「虎太郎君のお母さんって、すごいね。パッと見て、救急車呼ぶようにお父さんじゃないひとに頼んで、私が持ってたタオルを丸めて、足の付け根にぎゅーっと押し当てたら、血が出る勢いが減ったの。コーチが、僕が変わりますって血を止めるのを替わったら、足の傷をじっと見て、大丈夫よ虎太郎って、言って、虎太郎君の頭を撫でたの。そんでね、お父さんじゃない人とケータイ替わって、いろいろ説明してた。尊敬する〜。」と大声を出した。お父さんじゃないひとじゃなくて、壮一郎さんだから。と僕は思った。
開けられたドアから白衣を着た男の人と看護師さんが入ってきた。
「そう、君のお母さんは、優秀な看護師だったよ。」と笑っている、担当医の山下です。と言って、
「昔、君のお母さんに会った時、僕は研修医で、憧れる事しかできなかったけど、あっという間に君のお父さんがさらっていった。結構強引にね。その時の話は、聞きたければ、教えてあげるよ。リュウ先生には内緒で。さっき、ナナコさんは僕のところに挨拶に来てくれたけど、あいかわらず、美しい人だね。うん。」とひとりで頷いている。
「さて、君達は学校に行かなくていいのかな。」と制服姿の3人を見る。やべー、遅刻する。山下センセー虎太郎君のママとパパの話、後で聞かせてとさやかはちゃっかり頼んでいる。後で、また来ると言って、部屋をバタバタと出て行った。
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