大きな河の流れるまちで〜番外編 虎太郎の逆襲〜
その後の2人

あやめ19歳。虎太郎18歳。

私、東野あやめ、19歳。希望の医学部に合格して、1年経とうとしている。医学部のカリキュラムは忙しく、厳しい。毎日、勉強し続けないと、すぐに、留年してしまいそうだ。大学のそばの駅に直結するマンションを借りてもらって、一人暮らしをしているが(掃除は週1回のペースで、お手伝いさんが来てくれる。)大学で、レポートや、勉強をしているから、寝に帰るだけの仮住まいってかんじだ。
明日は許婚の尾崎虎太郎が高校を卒業する。彼も、4月から同じ大学に通うことになっている。ここは彼の父親の母校だ。彼の父親のリュウはものすごく優秀なひとで、首席で卒業しているらしい。虎太郎はあえて、この大学を選んだ。
やれやれ、どこまで張り合う気なんだろう。虎太郎は、父を必ず追い越すと誓っているが、まあ、当分、無理かな。リュウパパは努力し続ける才能に溢れたひとで、虎太郎との距離は縮まらないのだ。
虎太郎は高校に入ってから、どんどん背が伸びて、もうすぐ、リュウパパの背に届く。185センチの長身で、リュウパパに似た顔立ちは、意志的で、彫りが深い。ナナコママの茶色い瞳を受け継いでいて、リュウパパよりも柔らかな印象だ。まあ、背が伸びてきてから、かなり女の子達に人気が出てきているらしい。
左足の怪我はは、リハビリの甲斐があって、軽く走るのにはちっとも問題はないくらいに回復したが、サッカーの試合に出て、激しくぶつかり合うのはちょっと、心配かな。部活は最後まで、続けたけど、試合に出れたのは、2回だけで、短い時間だった。でも、それで、虎太郎は満足しているらしい。サッカー部の友人達は彼の宝物だ。
私達の関係はと言うと、まあ、一言で言うと、ちっとも進んでいない。
私の受験と虎太郎の受験で2年間、忙しかったし、私も大学に入ってからは、長い休みがなければ、帰れなかった。
オマケに虎太郎ときたら、
「この1年間は自分からは連絡しない。だから、あやめは自由にしていいよ。男の友達も作っても、かまわない。もし、僕より好きな人が出来ても、仕方がない。受験が終わったら、あやめを取り戻せるよう努力する。」とか、格好つけて、自分から連絡してこなくなった。でも、最初のゴールデンウィークに帰ったら、道端に自転車を投げ捨て、私を抱きしめ、人目もはばからず、キスしてきて、周りにいた、サッカー部の友人を呆れさせた。周りの目を気にしないあたりは、リュウパパの血を受け継いでいるってことかな。リュウパパはナナコママに今でもぞっこんなので、他の女の子と浮気する心配はないのかもしれない。と思って、密かにホッとしている。私が家に帰っているときはずっと、そばにいて、勉強したり、雑誌をめくっていたのを思い出す。虎太郎の横顔を思い出すと、ニヤニヤしてしまうほど嬉しい。虎太郎の愛情は真っ直ぐで、私の心を鷲掴みしているって、彼は気づいているのかな。私は女の子の友達だけで十分楽しい。虎太郎が心配するような男の人の存在はまるでない。私は虎太郎だけで十分なのだから。それに、去年の夏に虎太郎はサッカーチームの子供の合宿を2泊3日で手伝って、アルバイト代を手に入れ、細い金色の指輪をプレゼントしてくれた。右の薬指にはめられたとき、私は嬉しくて、泣いてしまった。これからもずっと、一緒にいられるとおもって、すごくうれしかった。家族にいくら冷やかされてもちっとも気にならない。それぐらい昔からずっと、虎太郎が好きなのだ。
さっき、虎太郎からLINEが来た。虎太郎から連絡が来るのは久しぶりだ。卒業式が終わったら、東京のアパートに行くって、お祝いしてくれるでしょう。とあって、最後に、逃げんなよ。と書かれていた。顔が赤くなる。
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