大きな河の流れるまちで〜番外編 虎太郎の逆襲〜
カフェテリアのドアを開ける。ここは、改装したばかりで、お洒落なカフェ風なので、利用する学生が多い。同じ学年の知っている顔もちらほらいる。しまった、春休みに入ったから、知り合いに会う事はないって思ってたのに。美緒ちゃんが
「どのひと?」と聞いてくる。
探すまでもない。目立つ格好はしていないのに、私は窓際の席で少し、額にシワを寄せて、文庫本を熱心に読んでいる、許婚の姿を、見つめた。美緒ちゃんは小声で、
「うひゃー、すっごく、イケメンじゃん。」とテンションの上がった様子だ。周りに座った女子が、虎太郎の様子をチラチラ見ているのがわかる。随分といいオトコに仕上がってきたものだと感心するほどだ。
「ねえ、ねえ、どこで知り合ったの?紹介して。」とだんだん声が大きくなる。と、虎太郎が目を向ける。私を見つけて、大きく微笑んで、

「あやめ。」と私の名前を呼んだ。周りにいた学生たちの視線が私に注がれるのがわかる。私は急いで、テーブルに近づく。
「虎太郎、行こう」と外に連れ出そうと、声をかける。虎太郎は笑って、立ち上がろうと、したところで、美緒ちゃんが、虎太郎の肩を押して、座らせる。
「はじめまして、あやめの親友の美緒です。」いつから、親友を名乗っているのかな、邪魔しないでほしい。とちょっと呆れる。
「美緒、また、後で話す。とりあえず、ここを出よう」と私が慌てると、虎太郎は笑って、すわりなおし、
「はじめまして。尾崎虎太郎です。春からここに通うことになっってます。あやめのお友達ですか?」とにっこりする。
「ねえ、2人はどういう知り合いなの?彼氏がいるなんて、ちっとも聞いてなかったんだけど。」と虎太郎に遠慮なく聞いたので、
「あやめ、俺の事、誰にも話してないの?」と不機嫌な顔をして、私を睨む。そして、
「あやめは、どう言って欲しいの?」とため息をつく。私は慌てて、
「隠すつもりはなくて、ちゃんと、好きなひとはいるってちゃんと周りの人には話してた。だって、イマドキ許婚がいるって言っても…」という言い訳は、美緒ちゃんの
「いいなずけ〜 ?!」という大声にかき消された。ああ、これで、有名人だ。私は諦めて、虎太郎の横に座る。虎太郎は私ににっこり笑いかけ、
「あやめの好きなひとって俺の事?」と聞いてくる。はいはい。そうです。虎太郎はだんだんリュウパパに似て周りの事を気にしなくなってきてますよね。
「人前で、そーいうこと聞かないでください。」と、機嫌の悪い声を出すと、美緒ちゃんが
「あやめって、すごく感情を出さないひとだと、思ってたけど、…違うんだね。」と驚いている。虎太郎は
「うーん、人見知りで、不器用だから、うまく人と付き合えないって感じ?」と笑って、
「ナルホドねー。そういうことか。すっごく仲良くなれそうな気がしてきた。ズカズカ踏み込んでちょうどってこと?」と美緒ちゃんは納得している。さっきは私の親友って、言ってませんでしたっけ?私は、
「ズカズカ入ってこられても困ります。」とまだ、不機嫌な顔を見せると。美緒ちゃんは
「まあまあ、今度あやめの家に遊びに行こうっと、駅から直結のマンションなんて便利すぎでしょ。飲んだ後はあやめの家ってことにする。」とにっこりする。虎太郎が
「俺もその部屋に住むつもりだから、あんまり邪魔しないでね。」と笑った。私は驚く。美緒ちゃんが
「同棲ですか〜?」とまた大声を出す。注目されまくりだからやめて欲しい。
「虎太郎、本気なの?」と私は虎太郎の顔を見る。虎太郎は
「壮一郎さんと、リュウには言って来た。壮一郎さんがリュウに『お前の家の伝統なのか?!』って怒ってたけど、リュウがナナコの部屋に結婚前、転がり込んでたのは知ってるだろ?きっと、黙認してくれるよ。」と笑った。




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