…だけど、どうしても
「花乃。」
「紫苑…」
嘘っ、知り合い? と、美砂が小さく悲鳴を上げる。同時に彼に集中していた視線が、一斉に私に降り注がれた。
そんなことは知りもしないというように、彼が大またで向かってくるので、私も彼に近づいていかないわけには、いかなかった。
「よかった、すれ違いになってなくて。待ってたんだ。」
「どうして…」
「あのままじっとしてても、連絡くれないだろ。」
彼の余裕たっぷりの微笑みに私は、かなわない、と思ってしまう。私の行動なんかお見通しなのだ。通っている大学を調べることなんか、彼にとってはわけのないことで。
「迎えに来た。時間ある? 夕飯でもどうかと思って。」
衆人環視の中で、あまりにもスマートな誘い方に、隣で美砂が卒倒しそうになっている。
「あの、でも。私、これから…」
「い、いいですいいです! 私の話なんか、明日で全然いいし! 花乃、気にしないで!!」
何をそんなに、と言いたくなるほど美砂が慌てふためいて、胸の前で両手をちぎれそうなくらいぶんぶん降っている。
彼は初めて美砂に目を向けて、誰も彼もを魅了する笑顔で悪びれずに言った。
「そう? ごめんね。」
「いえいえ! どうぞ、ごゆっくり〜」
「ちょっと、美砂?」
美砂はよくわからない不審な笑い声をあげながらあっという間に去っていった。
「行こうか。」
助手席のドアを開けて彼が私の腰を押すので、私は戸惑いながらも従って、車に乗りこんだ。