…だけど、どうしても

そして、正門にさしかかった時。
遠巻きに、女の子たちの視線を一身に浴びても、涼しそうな顔をして。
濃紺のボルボに寄りかかって、本当にポスターか何かみたいに完成された美しい佇まいで、彼が。
圧倒的な存在感で、芹沢紫苑が、居た。

「やだ…こういうの、なんていうの? ゴージャス? すっごい、セクシー…」

隣で美砂が息を飲んでいる。

そう…彼に目を釘付けにされない人なんて、きっといない。
緩やかなウェーブを描いたつややかな漆黒の髪は、目にかかり、アーチを描き、きれいな形の額を見せていて。
引き締まった体躯に、まくられたワイシャツから伸びる逞しい腕。
切れ長の黒い瞳は物憂げに伏せられて、睫毛の長さが際立っている。
全ての要素が完璧に噛み合って、見るものすべてを惹きつけるような色香に溢れかえっていた。

「嘘…」

「花乃?」

足を止めた私を美砂が首を傾げて呼ぶ。
ざわめきの中から、そんな小さな声を拾ったとでもいうのか、彼がこちらを見て私を見つけ、とびきり魅惑的な笑みを浮かべた。
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