…だけど、どうしても
冬 これ以上(後)

1.



「あーあ、いーないーな、花乃はクリスマス絶対素敵な思い出になったでしょ?! 紫苑さん、何してくれたの?! ヘリコプターで夜景見たりとか?!」

美砂がキャーッととんでもない声を上げるので、カフェ中の視線が私達に集まる。

「まさか…仕事も忙しいし、少し同じパーティに顔を出して、彼の家に泊まって終わりよ。」

「え〜てっきり紫苑さんのことだから、赤いバラの花束とか持ってきてさ〜…」

「美砂…何か紫苑を誤解してると思う…」

「リアル王子でしょ! 王子ってのはそういうもんよ! いいなあー私にも現れないかな、王子サマ…」

「ちょ、佐貫くんが聞いたら怒るよ…」

「いーのもうあんなやつの話しないで!」

「美砂ってば…」

あの日、無断外泊となってしまったことを気にして、以前から申し出てくれていた私の家への挨拶を、紫苑がしてくれた、という話をしたら、キャー王子本気じゃない〜、と、美砂が大はしゃぎしてしまって、ずっとこんな調子だ。

家への挨拶と言っても、父は仕事でいないし、母は相変わらず寝室から出てこないので、黒田が対応しただけだった。
けれど、あの艶やかな出で立ちはそのままに、きちんとネクタイを締め、きちんと謝罪し、その上真剣にお嬢さんと交際させて頂いておりますとまで宣言した目の前の紫苑に、さすがの黒田も気圧され…というか、そんなことは似ても似つかないような人が、自分に深々と頭を下げているというギャップが居心地悪かったのか、黒田は覚悟していたほど怒りはしなかった。
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