…だけど、どうしても


ひとまず花乃を応接室に通した。

「ごめんなさい。言ってくれればどこかお店で待ってるから。」

「いや、いい…まだあんまり体調良くないんだろ? もうすぐみんな食事に出るし、後で出前でも取ってここで食べよう。帰りは送るから。」

「え、そこまでしてくれなくて平気よ。すぐに終わるから、紫苑は後でどこかで食べて。食欲もあんまりないの。」

「食べなきゃ体力戻らないぞ。」

言いながら、とりあえず俺はテーブルを挟んで向かいに座った。

「で、どうした。話って?」

「…あのね。」

一瞬間を置いて息を吸うと、後は淀みなく最後まで穏やかに、花乃は言った。

「別れてって、言いに来たの。本当はもっと早く言うべきだった。ううん、本当は、始めちゃダメだったの、私みたいな人が、貴方みたいな素敵な人と。だけど私、貴方が追いかけてくれて、本当に嬉しくて。貴方と居た時間本当に幸せで、夢みたいだった。感謝してもしきれないわ。紫苑、今まで本当にありがとう。」

そして、深々と頭を下げた。

俺は、

俺は頭が真っ白に、なって。

それじゃあ、お仕事邪魔してごめんなさい、と花乃が立ち上がる。

身体が動かない。

俺が、花乃を、失う…?

ガラスのテーブルが呆然とした俺の顔を映している。

また、逃げるっていうのか。俺をこんなに、虜にしておいて。また、笑顔で。
なんて…なんて自然に、話すのだろう。こんな話を、苦しみなんかないみたいに、花乃は…

いや、違う、動け、追いかけろ。花乃が出て行ってしまう。

ーー行かせるな。

花乃が、もし…
花乃が、俺に対して嘘を吐くとしたら。無理をしているとしたら。
それは、驚くほど自然なはずだ。
だけど俺は見抜ける。
そうだろ?

< 88 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop