恋した責任、取ってください。
 
グラスの中でゆっくりと気泡が上っていく様子を眺めながら、しんみり悲しくなった。

けれどそこで弥生が言う。


「でもね、逆に言うと、告白だって気付けなかったってことは、お姉ちゃんにとって、それだけだったってことよ。もし仮につき合ったとしても、絶対エッチさせなかったと思う」

「え、そこまで断言しちゃう?」

「しちゃうしちゃう。だってお姉ちゃんには、バージンを捧げるってファンタジーレベルだからね。それに、ちゃんと気持ちが入ってないとめっちゃ痛いんだよ~? あたし、あんまり痛い痛い言いすぎて萎えさせたことあるからね」

「マジでか……」


ど、どれだけ痛いんだろう。

鼻からスイカレベルだろうか?


「マジだよ。お前が痛がるからだ、とかなんとか難癖付けてくるから、お前が下手くそなんじゃ!って言ってフってやったけど」

「うわははっ。さすが弥生ちゃん!」


でも、女性にとってそれくらい大事なものだということは、経験がない私にもよく分かる。

ファンタジーにもなろう。

するとそこでグッとビールを煽った弥生が、いくぶん目を涙で充血させながら言う。


「だからあたしは、お姉ちゃんが逆に羨ましいんだよね。つき合ったら、佐藤さんは絶対にお姉ちゃんを大事にしてくれる。岬さんだって、お姉ちゃんが可愛く見えてないはずない。あたし思ったもん、お姉ちゃんの人柄がそうさせてるんだって。あたし、今ほどお姉ちゃんみたいになりたいって思ったことないよ……」

「弥生……」

「でも、佐藤さんの好きな人がお姉ちゃんで良かったな。見る目あるわ、佐藤さん」


スンと鼻をすすり、涙声の混じった溜め息をつく弥生の頭をそっと抱き寄せ、小さく震えるその背中を、ゆっくり優しく撫でる。

恋は本当に難しい。

好きの気持ちだけではどうにもならないこともある恋を、この日、私は知った。
 
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