恋した責任、取ってください。
 
「お盆休みが明けたら、シーズン開幕に向けて本格的に練習が始まります。今年こそプレーオフ進出を果たしてみせますから、夏月さんも俺らのサポート、よろしくお願いします」

「はい。全力でサポートさせて頂きます」


マンションの前に着くと、私の返事に満足そうに目を細めた佐藤さんは、「じゃあ、休み明けに会社で」と軽く片手を上げて暗がりの中へ消えていった。

いつかのように私がエレベーターに乗り込むまで見送ることなく背を向けて去っていった佐藤さんに、それでも私は、それからしばらく頭を下げ続けた。


好きになってくれてありがとうございました。

想われる幸せをありがとうございました。

弥生や私に誠実に向き合ってくれてありがとうございました。

たくさんの初めてをありがとうございました。


言葉では言い尽くせない思いは、やっぱりまた涙として溢れたけれど、気持ちを落ち着けるようにふぅと深く息を吐いて顔を上げると、もう涙はこぼれなかった。

エントランスを進み、エレベーターの階数ボタンを押す。

さて、明日は実家に帰ろう。

家族に思いっきり甘えたり、地元の友達と会ってリフレッシュして、また新たな気持ちで仕事に打ち込めるように。


まずは今日のバスケ教室をブルスタのホームページにアップすることだろうか。

楽しそうに笑う子供たちや、大人げなく本気を出してゲームをするコーチをしてくれたみなさんの顔を思い浮かべながら、ちょうど降りてきた箱に乗り込んだ。





 
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