恋した責任、取ってください。
 
こんな私に真正面からぶつかってきてくれて、ちゃんと答えを出すまで待ってくれて。

〝誠実〟を絵に描いたように、ひとつひとつ丁寧にアプローチしてくれて、弥生にも誠実に向き合ってくれて。

……ここ最近、佐藤さんを必要以上に思い悩ませてしまったのは、むしろ私のほうだ。


「夏月さん、大好きでした」

「……っ」


抗議はしたものの、胸の中に溢れる気持ちを何ひとつ言葉にできずにいると、私の胸中を汲み取ってくれたのか、佐藤さんがにっこり笑ってひとつ頷き、そう口にした。

〝大好きでした〟という過去形の言葉とその笑顔に、一瞬止まりかけていた涙がまた溢れ出す。

これ以上、私が佐藤さんに何か言うことなんて到底できるわけがなく、涙で歪んで見える佐藤さんの顔を見つめながら、口を一文字に引き結んでこくりと頷く。

すると佐藤さんが、すかさず困ったように破顔しながら「笑ってください」なんて無茶なことを言ってきて。

「できませんよ、そんなの……」と一度は断ったものの、「笑わないとキスしますよ」などと若干脅し気味な口調で急かされて、慌てて口角を持ち上げた。


「じゃあ、行きましょうか。どうせ俺も帰り道ですし、せっかくなのでマンションの前まで送らせてください」


ぎこちなさ百パーセントだろう笑顔でも満足したのか、そう唐突に言うと佐藤さんは私の返事を待たずに歩き出した。

その広くて大きい背中を数歩後ろから追いながら、無理に笑わせたのも、返事を待たずに歩き出したのも、きっと佐藤さんの温かで優しい心遣いなんだと私は思う。

私に変に罪悪感を植え付けないために、空気が気まずくならないために。

あらゆる手を尽くしながら、そうやって佐藤さんは私の気持ちを受け入れた上で、また新たな関係を築こうとしてくれているのだろう。
 
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