恋した責任、取ってください。
 
でも、少しでも気持ちよくお酒を飲んでもらいたいから。

普段は高浜さんやザキさんのお酒の飲みっぷりにサポートチーム一丸となって目を光らせているけど、今日の大地さんには目をつぶっておくことにしようと思う。


「あの、さっきちょっと思ったんですけど、大将さんと親しそうですよね。よく飲みに来たりするんですか?」


だから、話題も変える。

私用にソフトドリンクを注文してくれたときや席を移動したときに思っていたんだ、ただのお客さんにしては大地さんも大将さんもお互いに勝手がわかっているというか、知らない仲ではなさそうというか。

葛城さんのことは、今はとりあえず、もう少しお酒が進んでから。

追加の熱燗がきたので大地さんにお酌をしながら、当たり障りのなさそうな話題を振ってみることにした。


「……なっちゃん、そんなに気を使わなくてもいいんだよ?」


けれど大地さんは、私の意図なんてすっかりお見通しらしい。

眉をハの字に下げ、もう何度目かもわからない微苦笑をもらしながら申し訳なさそうな声色で言う。


「すみません、そんなつもりじゃなかったんですけど……」

「ううん、いいよ。ありがとう。そうだなぁ、大将とはもう7年くらいの付き合いかな。前はよく葛城と飲みに来ててね――その頃は店の場所も違ったし、雰囲気ももっとガチャガチャした居酒屋風で。大将もまだ修行中で、独立してここで店を始めたんだけど――よく閉店時間ギリギリまで居座って若かりし頃の大将に呆れられてたなぁ」

「……そ、そうだったんですか」

「うん。葛城とは高校からの縁だし、大学も同じところに進んだからね。プロになるときにチームは分かれたけど、10年以上の仲だから」


そう言って昔を懐かしむように目を細め、お猪口の日本酒を一気に飲み干す大地さんとは反対に、知らなかったとはいえ、自分から葛城さんの話題を振ってしまった私は、とたんに居心地が悪くなる。
 
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