恋した責任、取ってください。
 
あ、そっかランニングの続きか!

と一拍置いて気づく。

「おやすみなさい」を言う間もなく走り去られてしまって少し寂しかったけど、考えてみたら佐藤さんはランニングの途中だったのだ。


「明日も佐藤さんと遊んでもらえるといいね」


足元のもんちゃんに笑いかけ、マンションの中に入ってエレベーターのボタンを押す。

私たちの部屋は5階だ。

佐藤さんと別れてから終始、佐藤はどこだ!?と辺りをちょろちょろ動き回っていたもんちゃんを抱きかかえ、到着した箱に乗り込んだ。


部屋に帰って身の回りのことを急いで片づけると、早速ベッドに仰向けに寝転びバスケの教本を開きつつ、大地さんに想いを馳せる。

佐藤さんは大地さんをヘタレだと言っていたけど、裏を返せば、それはきっと、尊敬しているからこその厳しい言葉だったのだと思う。

一緒に引退を阻止しましょうって言ったんだもの、その言葉が全てを語っている。


「あれ……?」


しかし、そこである重大なことを思い出した私は、お腹の上で丸まっているもんちゃんを跳ね退ける勢いで起き上がり、頭を抱えた。

びっくりしたもんちゃんがオドオドしているけど、私のほうが数倍オドオドしているはずだ。

だって。


「大地さんの恋人関係、聞くの忘れた!」


おおお奥さんとかいたらどうしよう!?

いや、それならそれで、初恋をさせてもらった殿方として私の中で美化し奉り恭しく扱わせて頂くのみだけれども、チャンスがあるかどうかくらいは知っておきたかったのが本音だ。


「ああ、でも、どうやって聞けば……!?」


生まれてこの方、恋なんてしたことがなかったから、全く見当がつかないんだけれども。

恋愛のハウツー本とか読んだらいいかな!? それとも弥生……は絶対茶化してくるからダメだ。


「うへぇ、ちっとも分かんないー……」


この日なかなか寝付けなかったのは言うまでもなく、私は自身の経験の無さを生まれて初めて本気で呪い、猛烈に後悔したのだった。

私の初恋、こんなんで大丈夫かな!?
 
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