理想の恋人って!?
 そう思って気づいた。私たちは恋人同士じゃない。ただの腐れ縁の幼馴染み。それに、これだって偽のデート。お互いが相手の理想の恋人を演じて、理想のデートをしているだけ……。

 涙が浮かびそうになって、下唇をギュッと噛みしめた。

 ああ、どうしよう。なんでこんな気持ちになってしまったんだろう。

 でも、それは理想の格好で理想のデートをしたから? 晃一が私の理想の男性を演じてくれているから?

 それならこれは本物の恋と言えるのだろうか?

 わからない。

 答えの出ない問いを自問自答しているうちに、電車は最寄り駅のホームに滑り込む。電車が停まって、私の腰に回されていた晃一の手が離れた。それが寂しくて、とっさに晃一のシャツの左袖をつかんでしまう。怪訝そうに私を見る晃一。

「あ、ごめ……」

 けれど、晃一は左手をひらひらと振った。

「シャツをつかむより、こっちの方が歩きやすいと思うけど」
「う、ん」

 晃一の大きな手に、そっと手を重ねた。指先が絡められ、距離が縮まる。

 なんだろう、これ。くすぐったくて温かい。無言で並んで歩いているだけなのに、嬉しい。
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