汝は人狼なりや?(※修正中。順を追って公開していきます)
 ……怖い。

 狼谷くんは怒らせてはいけない相手なのだと、敵に回してはいけない相手なのだと、再認識させられる。

 ──彼の機嫌を損なわせては、いけない。

 それは、いつの間にか出来た、クラスメートの中の暗黙のルールだった。破ったところでデメリットしかないので、誰も文句を言わず、その暗黙のルールに従ってきたんだ。それなのに、寺山さんは破ってしまった。

 もちろん、狼谷くんの今朝の風子に対する侮辱的な発言に対して、理由はどうあれ寺山さんが怒ってくれたことといい、今回の狼谷くんによって乱れた規律を正そうとしてくれたことといい、寺山さんは何も悪くない。むしろ褒められることをしたと思う。

 でも、その結果、はなから常識を持ち合わせていない怒った狼谷くんに殴り返され、痛い目を見た。

 人──ましてや女性にグーで手をだすのはもちろんいけないことだけれど、狼谷くんに至ってはその一般常識が通用しないので対処しようがない。

 〝それはいけないこと〟だと注意しようものなら、機嫌を損ねた彼は、たちまち周りに危害を加え始めるだろう。自分の気持ちが落ち着くまで、永遠に。


「……っ」


 現に、誰も狼谷くんに言い返したり、間に入り込んだりして止められないでいるのは、そんなことをしたら(のち)に自分がどうなってしまうのか……理解している証拠なのだから。


「と、とにかくっ、〝みんな〟落ち着いて、現状をまとめてみようか……?」


 引き攣った笑顔を浮かべる上杉くんが、下手に出るように言う。狼谷くんだけが落ち着くべきなのに、「〝みんな〟」と全員のせいにしてうまくカバーしているのは、狼谷くんの気を良くしようとする表れ。
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