晴れ、のち晴れ
「もっと良い成績、もっと優秀な結果を、って、周りがどんどん目標をあげて期待して、誰ももういいよ、十分だよって言ってあげなかったの」
夢香は一口紅茶を飲んだ。暗い眼差しが膝元へ落ちる。
「お兄様はそのぐらい出来て当たり前だと思われていたから」
お兄様は過労で倒れたことがあるの、と夢香は付け加えた。
初耳だ。あたしは少し驚く。
「その時気付いたわ。この人、自分じゃ無理をしていることに気付けないんだって。周りの期待を背負うことに慣れすぎて、人の期待に答えるためにどんな無理でも出来てしまう可哀相な人なんだって」
夢香の声は今にも泣きそうな、悲壮な響きが含まれていた。
「あのね、梨羽さん。私は誰かを頼ったり、弱音を吐いたりしない人を強い人だなんて思わないわ」
真っすぐな夢香の瞳があたしを射抜く。
「誰かにすがれる人より、誰にも頼らない、頼る誰かのいない人の方がよほど可哀相なのじゃないかしら」
あたしは、夢香の優しげなのに、強い意思の宿った瞳を見つめ返した。