晴れ、のち晴れ
ふと、夢香が暗い顔をして、遠くを見た。
「私、早く大人になりたいの。嫌なものを嫌って叫ぶような子供のままじゃ、全然釣り合わないから」
葵から聞いた芳一のことを考えているのだろうか。
「でも…子供だから、嫌いなものを嫌いと言える代わりに、好きなものを好きと、素直に誰かへ伝えることが出来るのかもしれないわ」
夢香が女の顔をして、憂鬱そうにため息を吐いた。
あたしにはまだよく分からない感情だ。嫌いなら嫌いでいい、好きなら好きで駄目なのだろうか。
「梨羽さん、良ければもっとクッキー食べて」
顔をあげた夢香は、もう暗い顔をしていなかった。
あたしはクッキーに手を伸ばしながら、しばらく夢香と取り留めのない話をしていた。