彼女が男装する理由


心臓がドクンと鳴る音が聞こえる__。

急いで走っているせいもあるけど、
半分以上は…

「 玲愛、どんな反応するのかな 」
そんな気持ちでいっぱいだった。


今日は、風が少し強い。

いつもは短い髪だったから
気にしてなかったけど…。

16年目にして、初めて髪の毛の
存在が大きくなった気がした。


___風が吹いた…___


顔に髪が少しかかる。

目に髪が入らないように目を閉じた。


風が収まり、再び目を開けた。

視界の中に玲愛がいた。


私は急いで駆け寄り、
「 ……玲愛。」
と、呼んだ。

玲愛がこっちに気づき、
驚いた様に目を見開いた。

いつもと正反対な姿だから、
恥ずかしさと不安が入り混じったように
なり、つい視線が下にいってしまう。

でも、どこか期待して
しまう自分がいる。

「 …真琴…か…? 」
玲愛の声がやっと聞こえた。

「 そう。…ま、まぁ、男装の時はその名前だけど、ホントは”香奈”っていうんだ… 」

本当の名前なんて誰にも
言ったことがなかった。

玲愛に言ったのが初めてだった。

「 ……香奈… 」

「 えっ!わ、はっ、はいっ! 」
突然、本名を言われてビックリする。

普段も呼ばれたことのない名前で__

「 っ……!…よ、呼んだだけだ… 」

( すんごい、恥ずかしい//// )

玲愛を見ると、目線が横に向いて…

( …赤くなってる…? )

「 …ほら、行くぞ。」
………勘違いかな…?

「 その服…お前によく似合ってて…
  悪くないと思う。」

「 え… 」
玲愛に褒められて一瞬戸惑う。

「 ……あ、ありがと… 」


「 ああ。………ん。」
玲愛が手を出してきた。

「 え…? 」

「 ……っ、言わせんなよ……。一応カップルだろ。ほら、手ぇ出せ 」

( ///カアアアァァァァ……//// )

異性となんて、手繋いだことない……

え、待って………こんな私が………
繋いでいいの?

…………っああああああ!!!

繋ぐの初めてだし、どうやって
繋げばいいの?!

だだだだって!
玲愛の手のひらに重ねる様に繋ぐのか、

ゆ、ゆゆ指と指の間に指を入れて
か、かかか絡める(?)ような……

いわゆる……カップル繋ぎ……?

…………… ( ボッ!!///// )

な、何変な事を考えているの、私よ!

「 …………… 」

ドックン ドックン

玲愛を見た。

玲愛は、ただ…私を優しい目で
待って…………////( ドックン )


「 …………ップ! ははははっ!やべぇw
  お前ww 」


パリーンッ…

私……何、一人でときめいてたんだろ…

「 なっ!笑わないでよ! 」

「 いやwだって、お前w眉間に
  シワ寄せてさ、どうやって繋ぐか
  とか、どうせ考えてたんだろw 」

「 …っ!……ち、ちがうも…ん 」

って、図星ですね。

全部当たってるし、何も言い返せない…


「 ほら、こうやって繋ぐんだよ 」

玲愛が私の手を取り、

そして、繋いだ。


「 ……ぅ、うん…// 」

私の初めては玲愛だった。




玲愛と手を繋いで数分歩き続けただろうか……

玲愛はいったい何処に連れてくつもりなんだろう…


「 ……わぁ、見てみてっ、あの二人!凄い絵になってない?! 」

「 ん!!ホントだ!…ぁ、ヤバイってこんな声だしたら気づかれちゃうよ 」

「 あの二人って絶対モデルとかやってるでしょ〜! 」

「 ぁあぁ〜…モデル同士で付き合った的ね!やっぱ、モデルはモデルと付き合わなきゃダメだねぇ。こんな一般庶民がモデルとなんて…っ!ムリムリィ〜(笑) 」

「 ホントだよぉー(笑) 」



………いや、凄い聞こえちゃってる……

なんか気まずい、あんな事初めて言われた。

……第一に!モデルとかじゃないし、私も普通の一般庶民ですよ!!!!(汗)


私が一人で、困惑していたら
「 …着いた 」

わわわゎゎっ、
「 着いたの? 」
玲愛の顔を見ながらたずねた。

「 っ……///お前、俺の顔見んじゃなくて、前見ろよ……// 」

!?///
玲愛に言われて気づいた自分が恥ずかしい。

「 ぁ、あ!ま、前ね! 」

「 …ああ 」

私は目の前の光景にとても嬉しさと楽しさが入り混じったような感情になった。

そこには、緑の草原が何処までも続いているかのような…

草原の中には、タンポポやパンジー、ハナミズキ。そして、サクラソウ。

色んな花が咲き誇っていた。

花畑みたい…

「 ここって…… 」

「 こういう所に来るの初めてだろ 」
確かに初めてだ。

「 お前さ…普段から男装しかしてなかったし…。 」

それは…過去にトラウマがあって…。

「 お前は男になって、色んな事が変わって色んな事に得をしてるし、男になって良かった、とか思ってるかもしれない。 」

ホントだ。私は女である事で色んな事に対して不利だったし、得すらできなかった。

「 俺には、お前の……香奈のしてる男になるっていうのは逆に損してると思う…香奈の行動が全部悪いとか否定してる訳じゃないよ 」

「 …ぇ… 」

「 俺はさ、この草原とか花とか見ても性別が男だし、女からしては可愛いとか綺麗とか色んな感情があると思う、でも俺にはあんまわかんねぇ…はは…  

男はさ男の、女は女の見方があるし感情があると思う。

それって、凄く大切な感情だと思うから自分からその感情を隠すのは、もうやめろ 」

「 ……玲愛 」
涙が頬に流れ落ちる。

「 …?!ご、ごめん!強い言い方して… 」

「 違う、そういう涙じゃなくて… 」

「 ……? 」

「 重い話になっちゃうかもしれないけど、聞いてくれる? 」

玲愛はこんな私にでも優しい言葉をかけてくれる。

だから、全部話そう。玲愛に。

知っててもらいたい。

「 重くても、俺は何でも聞くよ。自分が言いたいこと全部吐け。ちゃんと、受け止めるよ。 」


そういって、私は過去のトラウマや出来事、何もかもを玲愛に打ち明けた。

どんな話しでも、玲愛はちゃんと正面を向いて真面目な眼差しで受け止めてくれた。


「 その時から、私は女であることが怖くなって男になることにしたの 」

「 うん… 」
目を逸らさずに聞いてくれる。

「 私は、こんな話からして逃げ出した臆病な人かもしれない。でも、自分なりに女の子はどうやったら可愛くなれるのか、どういう子が良いのか、色々考えて悩んで頑張ったし、努力もした。」

「 うん 」

「 でも、私はどんなに頑張ってもどんなに努力してもダメだった……もう……こんな自分が嫌………… 」

さっきよりは落ち着いてきていたけど、あの事を思い出してしまうと、どんなに堪えても涙が出てしまう。


「 香奈は、いっぱい頑張って努力した。その気持ち、凄い伝わった。でも、そこで諦めたら、今まで頑張ってきたこと努力してきたこと全部、捨てちゃうの? 」

「 ……でも、何も変わらなかった。 」

「 そうかな。何も変わらなかったはずはないよ。少しづつでも、変わってきてるよ。さっきだって、周りから好評化されてたじゃん? 」

「 ……それは…… 」

「 一番に、今日お前は香奈としてここに来てくれた。女が嫌だったら、香奈として来れなかったと思うよ。でも、香奈は過去にどんなに辛くて苦しいことがあっても勇気をだして香奈として来てくれた。それだけでも、凄い変わったよ 」

「 …………うん… 」

「 努力して頑張ってる子は、可愛くなれるよ。 」

「 …そんなの…証拠も根拠もないよ…… 」

「 証拠だったら、ここにあんじゃん 」

「 ………ぇ? 」

「 誰よりも一番に努力して頑張ってその結果がでてんじゃん 」

「 ………? 」




『 香奈、凄え可愛い 』


玲愛は、また、あの無邪気な笑顔で
私にそう言った。

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