WORKER HOLiC
「加倉井さん甘党なんだね」

 ……そう言う有野さんは辛党ですか?

「ダメですか?」

「いや? その割に細いんだね」

「……………」

 ……ほそ、細い!?

 そ、そそそれは、どこを……

「あ。変な意味じゃないよ? 服の上からでも細いって解るし」

 笑いながら言う有野さんの視線は、明らかに私の足を見ていた。

「セ、セクハラって言われますよ!」

「え~……出てる所くらい見せてよ」

 どういう論理ですかっ!!

「ま。冗談は流しておいて」

 どこからどこまでが冗談ですか。

「コンタクトなら、うちにあるよ」

 えっ……

 思わず振り返って見ると、背もたれに腕をかけていた有野さんがニヤリと笑った。

 ……この笑い方が、この人の本来の姿かもしれない。

「ハードコンタクトでしょう? 何だろうな……とは思っていたんだ」

「……そうです。あ、ありがとうございます」

「うちに取りに来る?」

 涼しげに言われて、背筋を伸ばした。

「携帯と違って、デスクに置く訳にいかないし。何よりケースもないから持ってくるのもね?」

 そ、それはそうですけど。

「とは言え、今日は駄目。俺は残業必須だし、何時に終わるか全然解らん」

 あ。

 何となくホッとした。

「じゃ、じゃあ。ケースをお渡ししますから、明日持ってきて下さる……とか?」

「ケース持ってるの?」

 首を傾げられ、力いっぱい頷いた。

「会社に行かなきゃ……ないですが」

「了解。じゃ、帰りに渡して。多分俺は君より遅いから」

「はい」

 でも、ディレクターが遅くまで残業なんて。

 今、何か大きな仕事でも入っていただろうか?

「今日は忙しいんですか?」

「うん。部外の後輩が、ちょっと無理を通して来てね。本来なら放って置くんだが……あいつは敵も多いから」

 会社内に敵?

 ライバルなら、何となく理解できるけれど。

 ……敵?

「いや。加倉井さんが思っているような敵じゃないと思うよ? ただねぇ、言動が言動だから敵を作りやすい奴ではあるね」

 ああ、つまり、あまり手助けしてくれる人が少ないって事かしら。
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