WORKER HOLiC
「有野さん……」

「今日、車なんだ」

 だから何だと言うの!?

「言っとくけど、先に彼女達を巻き込んだのは君だからね」

 飄々とした声に、キッと振り返る。

「で……どこまで暴露した訳?」

「何も」

「よくそれで、あの澤井さんの協力を得られたね」

「有野さん、露骨でしたから面白がって」

「ああ。それは失敗だったか」

 でも、これで噂になっちゃうわね。

「俺は別に構わない」

 はぁ?

「構わないって言ったの」

 何がよ。

「噂になろうと、なんだろうと」

 飄々とした答えにキョトンとした時、エレベーターは地下3階に着いた。

「……私、電車で帰れますからっ」

「だろうさ」

 有野さんは私を見下ろして、ニッコリと微笑んだ。

「あまり強引な事、するつもりなかったんだけどね?」

 いいえ、貴方はいつも強引な手段に訴えてましたが?

「何なんですか。いったい」

「君こそ何なんですか」

「私は単なる部下ですよ」

 有野さんは溜め息をついて、私の手を握るとエレベーターを降りた。

「あ、あの!」

「少しくらい普通の会話をしようよ。それでダメなら、大人しくするから」

 少し冷たい視線に口を閉じた。

 本当に、この人ってなんなんだろう。

 火遊びなら他の人にして欲しい。

 何も、火に近づきたくない私にちょっかい掛けなくてもいいじゃないの。

 黒い車の助手席側に立って有野さんを見上げると、ちょっとだけ困ったような笑顔が返って来た。

「イキナリ襲わないから。そんな不安そうな顔しなくていいよ」

 促されて、車に乗った。

「まずは話をしよう」

 運転席に乗りながら言う有野さんに、少しだけ困った。

 なんで、こんな時だけ急に年相応な態度になるのよ。

 いつもの軽いノリでいてよ。

 エンジンのかかる音を聞きながら、窓の外を眺める。

「俺のうちでいい?」

「他の選択肢は何ですか?」

「君のうち?」

 何故、うちになるわけ。

「どこか静かな所がいいな」

 言われて、溜め息をつく。

「じゃ、有野さんのうちでいいです」

「……ありがとう」

 車が動いて、駐車場を上がる。

 まだ明るいオフィス街を眺めながら、静かな運転に身を委ねた。

 本当に、何がしたいんだろう。










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