WORKER HOLiC

:Ⅲ

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 有野さんのマンションに着いた。

 お互いに無言で車を降り、促されるままにエレベーターに乗る。

 また、ここに来るなんて思っても見なかったかもしれない。

 コンクリートの廊下に響くヒールの音を聞きながら、ふっと不思議な感覚を感じていた。

 ……何だか、ほんのちょっとの間に色んな事があるものよね。

 案外、スッキリとした気分で有野さんの部屋に入る。

「そこに座ってて……麦茶しか出せないけど」

 ソファーを示されて、静かに足を揃えて座った。

「お構いなく」

「これは普通の事だから」

 そうかも知れない。

 だけど何か妙な気分。

 手持ち無沙汰で、つい内装に目が行く。

 壁紙は白。

 タバコは吸わないタイプなのか、白さが目立つ。

 家具はどちらかというと重厚。

 サイドボードは深い色合いの木目だし、ソファーにしてもアンティークぽい。

 小さなテーブルに置かれたメタリックブルーの電話機だけが、何故か不協和音を奏でている。

 これだけが違和感ありすぎ……

 自分で買ったモノなのかしら。

 考えていた時、ガチャンとガラスが割れる音がした。

「……大丈夫ですか?」

「……まぁまぁ」

 キッチンから聞こえた声に眉を寄せた。

 まぁまぁ……って。

 気になって覗いてみると、出しっぱなしの水道水に手をかざしている有野さん。

 そして、床に転がる割れたグラスといくつかの赤いもの。

「……切ったんですか」

「面目ない」

 苦笑している有野さんを見ながら水道水の蛇口を除けると、親指から血が滴った。

 これは、結構深く切っちゃいましたね。

「清潔なタオルは何処ですか」

「え? ああ、風呂場」

「手首を押さえて、心臓より腕を高くしておいて下さい」

 指示を出しながら、適当にドアを開けてみる。

 脱衣所の棚に洗濯済みらしい数枚のタオルがあったので、その一枚を持ってキッチンに戻った。

「手を出して下さい」

 怪我をした手をタオルでぐるぐる巻きにして、腕をあげてもらった。

「……ありがとう」

「当たり前の事ですから」

 呟いて、有野さんをキッチンから追い出す。
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