WORKER HOLiC
「なぁんだ、何もなかったって訳なの? つまんない」

「……ははっ」

 正確に言えば、何もなかった訳ではないけれど……

 金曜の夜は記憶にございません……

 記憶にあるのは、朝一番に見た有野さんの笑顔の〝おはよう〟と、久々に見た男性の裸と……

「……………」

 欲求不満か、私は……

 手にしたペンを指の上で回しながら首を傾げる。

 ……どんなだったんだろう。

 思えば、男性経験なんて一人だけ。

 ある意味で、衝撃的な破局を迎えた祐介だけ。

 ふっと有野さんを見て、ずり下がった眼鏡を上げる。

 確か、有野さんは32歳。

 6歳年上で、あの朝の対応からするとかなり女性には手慣れてそう。

 本当に軽いノリだったものね。

 ……うん。

 多分、かなり遊んでいそう。

 部下とそういう関係になっちゃって、普通ああも飄々としていられるものなんだろうか?

 ……と、すると、過去にも有野さんはそういう経験があるんじゃない?

 それって……

 ……女の敵ね。

 一人頷いて、パソコンの画面に視線を戻した。

 構わなければいい。

 そういう手合いの男はしつこくはないはず。

 ……祐介はあっさりしていたし。

 構わなければ、勝手に他にいってくれるはずよね。

 キュッと唇を引き締め、ポスターを仕上げる。

 一度それをデータ化して、ROMに書き込むと次の仕事に取り掛かった。

 画像の処理は楽しいけれど、正直言うと単調。

 色彩をシャープに、逆にこっちはぼかして……

 アートディレクターの指示の下で、レイアウトを決めていく。

 どちらかと言うと、レイアウトを決める側になりたいな。

 なんて、まず無理よね。

 たいしたセンスはないし、友達の雪みたいなガッツはないし。

 雪はホントに尊敬しちゃうな。

 なんて……思っていたら、後ろの席で後輩が、こそこそと何かを話しているのが聞こえた。

「木曜日に営業の川瀬さんと、朝比奈さんが、ラブホに入るところを見たんだって」

「え。それって、つまり……」

「ダブル不倫~?」

 噂というものは、とにかく尾鰭が付き纏うわね。
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