Focus

「ブライダルはさ、基本土日祝日だから、こっちと被ることないし、結構こっちもいいんだぁ」



にやりと指でわっかを作る。



「結輝のスキルアップにもなると思うよ」



考える間をくれるように、またコーヒーに口をつける。いつも金欠でいるオレには有り難い申し出だか、多少不安要素もある。



「どうせブライダルなんて幸せな奴しかいないさ。自分がいい表情を引っ張り出す必要なんてない。シチュエーションだけ整えてほっときゃいい。受けてくれるか結輝?」



普段使わない有無を言わさない眼光がある。この時ばかりは、仕事のボスの顔をした。



「了解です。仕事に入る前にその人の作品を何点か拝見させて貰えないですか」

「あー。いーよ。そいつが仕事してんのはココ。ブライダルの資料として見本のアルバムがあるから、覗いてくるといいよ」



人差し指と中指に名刺を挟んでこちらに差し出す。

手を出して受け取りながら、そのお菓子みたいに甘い名前の印刷された名刺に、ちらりと不安がよぎる。

とりあえず、覗くだけでも行ってみようか。何と言っても報酬がいいと言うのは、たまらない魅力がある。

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