Focus

しばらく見つめてから、そっと部屋を後にした。




廊下を厨房に向けて急ぐと、こちらからは甘い香りが漂ってきた。

「ミオ」

呼ばれた彼女は、焼き上げたスポンジケーキから丁寧に紙を剥がしている所だった。作業を中断して、顔を上げてこちらを見た。

「教会に人がいたんだけど…」


「ああ。沙那さんだわ、それ。花を生けてたんでしょ」

うっすらとソバカスの散る頬を緩める。その顔は一流の師について、修行してきたという経歴はうかがえないほど、やわらかい笑みだった。

「なんかさ、すっごい真剣で写真撮ったのに気がつかなかった」

「え、写真撮ったの?」

「あ、うん…」

言ってから、かあっと頬に血が上る。普段ならこんなことありはしない。隠れて写真を撮る、なんてストーカー的な行為だ。写真には肖像権というものがあり、許可なく撮ったものを使用することはできない。

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