溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「えっ?」
塀にへばりつくようにして、こちらを見上げている人物と目があってしまった。
銀縁メガネで、薄い頭髪をこめかみのあたりで無理やり折り返している、あれは……。
「三田さん?」
バカ息子もとい国分議員の秘書の三田さんだ。どうしてこんなところに。
クレセント錠を解除し、窓を開けると同時に、三田さんは通りの方へ逃げるように走っていってしまった。
「待って!」
逃げるということは、それなりのやましい理由があるということだろう。
もしや、先日ここの庭に盗聴器を放り投げたのも、三田さんだったのか?
階段を降りていれば、逃がしてしまう。
私は窓を開け、バルコニーに出た。
「えいっ」
バルコニーの手すりに立ち、近くにあった電柱に飛び移る。
けれど、当然この高さでは、取っ手も足をかけるところもない。
コアラのように必死にしがみつき、腕とももに力を入れながら、ずるずると滑り降りた。
冷たいアスファルトの上に着地すると、すぐ三田さんが行った方へ向かう。