【完】R・U・I〜キミに、ひと雫を〜
「うちの娘がここまで言っているんだし、ここにいてくれないかな?嶋山成君」


張り詰めた空気の中、柔軟剤の香りがふわりと漂うような安心感が駆けめぐった。


「お、父さん」


「今日、僕からも提案するつもりだったんだよね。……笑里、ルイ、隠していたつもりはなかったんだけど、ごめんね。実は美樹君から少し前、土下座されたんだよ。俺の生徒を匿っちゃくれないかって。ふふ、あの無気力な美樹君がだよ」


リビングにのっそり現れたのは髭と髪の毛がボサボサの父で。


「ルイ、コーヒーが欲しいな」なんて呑気な声で言った父は、壁に肩をもたれかからせてふわりと微笑んだ。


「成君、君、ちょっと前に耳を痛めただろう?美樹君、事情を知ってるのに自分の家じゃ狭過ぎて匿えないから頼むって、あれはヤバイって凄く必死だったんだ」


まさか、あの美樹がそこまでするなんて誰が予想出来ただろうか。


美樹は面倒事が嫌いで、先生らしくない無気力な大人だけれど、ちゃんと大人として考えていて。


彼がいつか、私達に言った言葉を思い出した。


『……でもまぁ、最悪な結果にならないように導こうとは思ってるし、その為に色々出来る頭はある』


ああ、神様はいたんだ。あんな無気力だし生徒の前で煙草を吸ったり寝たりだらけた人でも、ちゃんと、ちゃんと私達を見ている神様が。
< 266 / 369 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop