【完】R・U・I〜キミに、ひと雫を〜
「ちゃんと思い出して、背負いたい。一番忘れちゃいけない記憶を」


手に掛けた瞬間を。一人の人間を殺した日を。苦しみを。絶望を。


ただ、その記憶はあまりにも厳重に鍵が掛かっている。開けられない。鍵を探しているのに見つからない。幼い私がどこかへ隠し持っているまま。


「も……良いよぉ!止めろ!思い出さなくて良いから!」


必死に鍵を探る私の遠くで、里佳子が泣き叫ぶ声が聞こえる。


「笑里ちゃん!君が自分を苦しめても何も返って来はしない!もう苦しむのは充分だろう!?」


燭の声も、聞こえる。普段あんなに穏やかな燭が、今日は何度も大きな声を出している。


「苦しむな!もう責めるな!俺が代わりに泣くから、もう独りで背負い込まないで……」


ちゃんと聞こえてるよ、成。君の声、いつだって彩り鮮やかで、私を救って、落ちて行く私を拾ってくれる。


ありがとう。それでも、私は幼い私から鍵を取り上げて、罪を騰なおう。


分かって欲しいのは、これは悲観する為じゃなくて、君達との幸福を進む為。
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