【完】R・U・I〜キミに、ひと雫を〜
気が付いたら、視界は砂嵐の入り混じった景色だった。


見覚えのあるブレザーの紺色と白いシャツと赤いネクタイ。そうか、これがキミが見ていた世界なんだね、ルイ。


「退け!それを壊して分からせる!お前には私しかいないってことを!」


正しく鬼の形相、断末魔。肉切りバサミを持った母は、肉親だとも思いたくない程に愛で狂っている。


「嫌!私の一番大切な物に触らないで!汚さないで!」


球技大会の日、幼い私が叫んでいた言葉が今度は鮮明に、君を通して聞こえた。


「大切、だと?あの男が造った物が?手塩に掛けて育てた私よりも?」


母は鬼の形相に、ただ一つだけ母の面影を残すように泣いていた。それでも、幼い私には母は恐ろしい化物にしか見えない。


「壊してやる!壊せば、笑里は私しか見なくなる!愛してくれる!」


「嫌っ!う……あ、あああ!」


砂嵐に広がる、幼い私から噴き出す鮮血の赤は、色褪せたフィルターに似合わぬ、吐き気がするくらいの鮮血。


「痛い、痛い、ううう……」


「大丈夫よ、笑里。コレを壊したらすぐに治療してあげる。愛してるから」


化物が、黒い手が幼い私を抱き締めた。まるで悪い物はもう怖くないよ、と子供をあやす、聖母のように。
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