【詩的小説短編集】=想い=
予感

『……ぃたっ………』


今、この状況を説明するとしたら『襲われる』この一言かもしれない。


私は無防備な態勢のままベッドに押し倒され、両手首をしっかりと掴まれている。


足をばたつかせてみたところで、自分の倍はあるこの男に敵うはずもないから大人しくしておく。

この重苦しい空気はもう5分くらいは続いているが、お互い会話はなく、キツく尖らせた視線だけが火花を散らしていた。

『あきらめよう……』


睨むのも疲れてきて、そう思った時に手首に軽い痺れが来た。


男が力を緩め、私の手のひらに血液が巡って来た事を知らせていたのだ。

初めて見るその男はゆっくりと私から離れ、ベッドの脇に座った。


ここは誰もいない保健室。

短縮授業でみんな帰ってしまった放課後に私は見てしまったのだ。


――――保健室の美乃梨ちゃんに告白をしていた彼を……


美乃梨ちゃんは生徒にはもちろん、先生達の間でも競争率が高いとされている今年大学を出たばかりの保健室萌え系美少女先生だ。

高校生の私達と年が近い為、生徒と言う立場を忘れた男どもが美乃梨ちゃんの笑顔に夢を見る。

どうやら彼もその1人らしい。


フラれて男泣きをしている姿があまりに綺麗で見とれていたのがバレてしまい、さっきのようないきさつになったのだが……

「悪かったな……」

沈黙をやぶりボソッと彼が言った。

「……ん」

手首を擦りながら私が答えた。


スッと立った彼は確実に顔がひとつ半は高い。

長い足。長い指。細い身体。

さっきまで睨んでいたその顔は、切れ長の目に長い睫毛。薄い唇。

申し分のない美少年がそこにいた。


「忘れてくれ……」


「えっ?」

当然と言えば当然の一言だが、その憂いを含む哀しげな顔に私は引き込まれるように彼を抱きしめていた。

「いいんだよ。泣いて…私で忘れられるのなら」
彼は身動きひとつしないで私に抱かれていた。

温い涙がそっと流れる。
このまま彼とむちゃくちゃになってしまいたい…

そんな欲望が頭をもたげる。


新しい恋が始まる。

夕日に包まれて、そんな予感がよぎった………


=fin=


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