甘いペットは男と化す
15章 取り戻したい
 
「お電話ありが……」
《あ。北島さん?》


お昼過ぎ、いつものように業務をこなしていると、鳴った一本の電話。

社名を名乗ろうとしたところで、電話先からあたしの名前を呼ばれた。


《俺、矢代だけど》
「矢代さん?どうしたんですか?」


かかってきた相手は、なじみの相手の矢代さんで、
わざわざ会社の電話にかかってきたことに首をかしげた。


《ごめん!ちょっとお願いしたいことがあるんだけど》
「はい?」
《俺の席にさ、茶色い封筒に入ったビレッジレインの資料があると思うんだけど……
 それを今から届けてほしいんだ》
「え?」
《今、俺もう、ビレッジレインの駅に着いちゃったんだけど、その資料持ってくの忘れちゃってっ……。
 一応早めには出たけど、さすがに取りに戻ると間に合わないんだ》
「……分かりました。
 じゃあ、矢代さんはそのままビレッジレイン社へと向かってください。
 あたしが今から届けに向かいますから」
《ほんと助かる!このお礼はまた今度するから!》


それだけ言うと、電話は切れてしまった。


「ごめん、菅野ちゃん。
 あたし、ちょっと届け物をしなくちゃいけないから、受付頼むね」
「了解しましたー」


こういったことは、決して初めてではない。

菅野ちゃんもとくに問いただすことはなく、あたしは矢代さんの席へ寄ると、資料を鞄にしまいオフィスを出た。
 
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