≪短編≫群青
大雅とも、大雅の仲間たちとも、当然だけど話すことはないまま終えた、始業式の一日。
あまりの気疲れに、とにかく今日は一刻も早く寝ようと誓っていたのだが、
「今から行くから」
夜、10時15分。
電話を掛けてきた大雅の開口一番がそれ。
出なきゃよかったと、心底思った。
まぁ、出ても出なくて、こいつは勝手にやってくるのだし、だったら今日は連絡があっただけマシなのかもしれないが。
「あのさぁ。私、眠いの」
「あと5分くらいで着くから」
「ねぇ、聞いてる? 私はね?」
「何か食うもんある? つーか、ついでにシャワーも浴びさせて」
「いや、だから、私は」
ぶつり。
と、一方的に通話は遮断されてしまった。
いつものことだし、わかっちゃいたけど、本当に勝手すぎる男だと思う。
「何? 大雅くんが来るの?」
横で電話の内容を聞いていたらしいママは、こんな時間なのに一切崩れてないメイクで、笑っている。
「ほんと、あんたたちって仲いいわよねぇ」
「仲よくないし。っていうか、ママが怒らないから、あいつ調子に乗ってほぼ毎日のようにうちに来るんじゃん」
「あら、いいじゃないの。ママはね、仕事で留守にしてる間、綾菜ちゃんが夜ひとりで家にいるの、ずっと心配だったの。だから、男の人がいてくれた方が安心だし」
「………」
「それにママは、可愛い娘の恋、全力で応援してるのよ。ちゃんと避妊することと、ちゃんと学校に行くことさえ守ってくれれば、あとは何でもオッケーだから」
恋じゃないし。
っていうか、私のことを『可愛い娘』だと言うなら、その『安心』の『男の人』が一番危ないと、なぜ気付いてくれないのやら。
でも、もちろんそんなことが言えるわけもなく、私はため息混じりにこめかみを押さえた。