≪短編≫群青
「ただいまー!」


玄関先からばたばたと足音が聞こえたと思ったら、バンッと寝室のドアが開いた。

息を切らしながら、ママが、



「綾菜ちゃん、大丈夫?!」


と、駆け込んでくる。

驚いた私は、思わず食べ掛けだったサンドイッチを口からこぼしそうになった。



「ママね、やっぱり綾菜ちゃんのことが心配で、朝一番の新幹線で戻ってきたの」

「あぁ、そうなんだ。でも、もう大丈夫だよ。一応、学校は休むことにしたけど、熱も引いたし。それに、大雅もいてくれたから」


私の言葉に、ママの目は大雅へと向けられる。



「ごめんねぇ、大雅くん。昨日、いきなり電話しちゃって。でも、ママ、ほんとに綾菜ちゃんが心配で」

「いいよ、別に。それに俺も綾菜のこと心配だったし」


どうしてこいつは、ママの前だとさらりとこういうことを言えちゃうのか。

さっきまで下品なことを言ってたくせにと思うと、少しばかり腹立たしかったのだが。


しかし、ママは目を輝かせ、



「愛ね、大雅くん」


と、大きな身振りと手振りで感動に浸ったように言った。

大雅は不思議そうに眉根を寄せ、



「愛?」

「そうよ。大雅くんが綾菜ちゃんを想う気持ち、愛でしょ。素敵じゃないの」

「………」

「あーあ、ふたりとも、早く高校卒業して結婚しちゃえばいいのにぃ」


何の話だ。

飛躍しすぎてついていけないママの言葉に、私はこめかみを押さえて息を吐く。


大雅はそれには答えず、物憂い顔で煙草の煙を吐き出した。

< 34 / 61 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop