≪短編≫群青
家に帰り、もうすぐテストが近いからと教科書を広げたが、もちろん勉強が手につくはずもない。
手が止まる度に色々なことが頭をかすめる。
ため息を吐いた時、ピンポーン、とチャイムが鳴った。
びくりとする。
こんな非常識な時間に訪ねてくるのはあの男しかいないだろうなと思っていたら、
「綾菜ー」
大雅はドアを開けて勝手に入ってくる始末。
チャイムを鳴らす意味さえない。
呆れ返ったままの私に、大雅はコンビニの袋を差し出した。
「何?」
「土産」
「珍しいことするね」
「口を開けば食費だの宿代だのうるせぇし、たまにはな」
受け取ったコンビニ袋の中には、花火セットと大量のガリガリ君のコーラ味が。
私は思わず目を見開いた。
「来る途中にジュース買おうと思ってコンビニ寄ったら売ってたんだよ。お前、それ好きじゃん?」
「………」
「花火は、ノリで? もうすぐ夏かぁ、って思ったら、何か中3の夏休みのこと思い出してさ。お前、覚えてねぇだろ、みんなで集まって花火したの」
「覚えてる」
忘れるはずがない。
でも、何もこのタイミングで言わなくてもいいのに。
「覚えてるよ。純粋で馬鹿だった私が初めてオオカミに襲われた日」
「おいおい、人聞きの悪い言い方すんなよなぁ」