吸血鬼の翼




「…これは、まさか…!」

未だ輝く巨大な魔法陣に手出し出来ずにいたロヴンは舌打ちをした。
そして、ラクザムを振り向き、少々厳しく睨み付ける。

「あの神父、まだ見つかってなかったの!?」

「……すまない、気配を感じ取れなくて」

苦虫を噛んだ表情を浮かべるラクザムを後目にロヴンは呪文を唱え始める。
何とかして、阻止しようとあらゆる魔法をブツけるも、全て無効化されてしまう。

「…取りあえず様子見だね。」

諦めたロヴンは平静さを取り戻して、傍観に徹した。

相変わらず、イルトには何の反応もない。
尚も光り続ける魔法陣は再び閃光を放ち、奔流となって空を仰ぐ。

その場にいる誰もが、瞑目した瞬間、魔法陣と共にイルトの姿が消え去っていた。
クラウとラクザムは辺りを見渡すが、やはり何処にもいない。

「……何処へ消えた?」

クラウは独り言の様に呟くと水色の瞳をロヴンの背中へ向ける。
勿論、返事等なく、緩慢と明るさを帯びていく空に対してロヴンはフードを目深に被った。

「やられたね、あの神父に…」

親指の爪をガリガリと噛むロヴンは深紅の瞳を光らせた。

「今の光は何だったんだ?」

どうやら、バルの所へも魔法陣の光は届いていたらしく、木の枝から飛び降り、ロヴンの隣まで足を運んだ。

「ちょっとね、面倒な事になったよ。」

バルの問いを濁したロヴンは壁へ視線を向けると、そこにいた筈の少女もいないという事に気が付いた。

「…バル、あの2人は?」

「ああ、さっきの光と一緒に何処かへ消えた。」

バルが不思議そうに答えるとロヴンは瞳を下へ向けた。
居場所が分からなくても、相手の隙を突く方法はある。
それに、あの神父が何をしようとしているのかも、大体の見当はつく。

…否、そうなると“或る人物”から聞かされていた。

「ふぅん、また鬼ごっこかぁ~今度は面白くなりそうだね。」

クスリと小さく嗤ったロヴンはイルトがいた地面を見つめていた。


< 111 / 220 >

この作品をシェア

pagetop