吸血鬼の翼




一方的に攻撃を受けたイルトは静かに横たわっていた。
意識は何とか失わずに保てたが代わりに苦痛が襲う。
しかし、先程の“遊戯”は中断された様子でロヴンはイルトの背中に腰掛けていた。
随分と機嫌が良くなったらしく、鼻歌までしている。
どうやら、今は殺すつもりはないらしい。

「あ!今、思い出したんだけど赤子知ってる?」

「………。」

唐突な質問に対して、訝しく思ったが、聞き返す余裕はない。ただ沈黙を続けた。
ロヴンはそんなイルトに対して特に構う事なく、喋り出す。

「消失事件ってヤツなんだけど…アレねぇやったの、僕達なんだ!」

「……!」

衝撃の真実をロヴンは何でもない様に淡々と答える。
イルトは思わず、ロヴンの方へ首を捻らせる。
確かに、あの事件には違和感があった。
皆には分からない、イルトだけが感じる呪縛。

その正体は“コレ”だった…

「村とか町とかを襲うから、人手が必要であのバカ鳥達にもやって貰ったんだけど……消えた人間達はミンナ、飲んじゃったよ。美味しかったなぁ」

その時の光景が蘇っているのだろうか、ロヴンの瞳は爛々としている。
イルトは真実に打ち拉がれて、頭を真っ白にさせた。

「赤子に遭う為の余興みたいなものだよ、普通に対面するのってツマんないじゃん?」

けたたましい笑い声が閑散した丘に響き渡る。

……俺の所為で、人々が犠牲になった。

自己嫌悪の底に追いやられたイルトは泣く事も赦されず、無力な自分を責めた。
それに気付いたロヴンは不思議そうに首を傾げる。

「何で悲しむの?ドコの誰かも分からない人間に同情でもしてんの?」

「……………。」

イルトに言葉はなかった。
否、ロヴンの声はイルトには届いていない。
まるで殻に籠もった雛の様だ。

「…ロヴン、朝日が近いぞ」

「分かってるよ。」

今まで沈黙を守って来たラクザムが口を開き、ロヴンへ真っ黒のローブを投げ渡す。
それを手に取ったロヴンは素早く着用し、立ち上がった。

「さて、取りあえず赤子を………!」

ロヴンがイルトの四肢に刺した長い爪を抜こうと手に掛けた。
その瞬間、イルトの体の下から大きな魔法陣が現れ、光を放つ。

眩しい閃光に瞑目したロヴンは思わず、後退りながらその場から離れた。



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