吸血鬼の翼
そのまま家のドアを開けた。
予想通り、鍋の煮える匂いや包丁の音で台所から母の居る気配がした。
美月はラゼキに目配せをし、彼はただ大丈夫だと言う陽気な表情を見せる。
すると美月が帰って来たのがわかったのか、台所から母が出て来た。
「おかえり。」
「…ただいま。」
母と何時ものやり取りを交わした後、美月は不安になって母の様子を見る。
案の定、母はラゼキを見ていた。
珍しい服装に変わった色をした瞳、ただでさえ男の子を家に上げた事などないのだから(イルトは含まない)、そちらに視線がいくのは当然だろう。
どうとでもなれ。
そう思いながら瞼をギュッと閉じた。
すると母の明るい声を耳にしたのでゆっくりと目を開けて見るとラゼキと親しく話している。
「…?」
一体何が起きたのだというのだろうか―?
呆然とする美月を見た母はニッコリと笑っている。
「どうしたの?そんな顔して、ラゼキ君を部屋に連れて行ってあげなさい。」
「…え?」
「まぁ、こんなもんや。」
ニヤッと笑って彼は美月の耳元で小さく囁いた。
ラゼキは未だ理解出来ずに戸惑う美月の背中を押して促す。
「ねぇ、何をしたの?」
「後で教えたるわ…、そんな事より今はイルトや。」
そう言うラゼキの瞳は真剣で美月もそれに応える為、イルトのいる部屋へと彼を案内した。